Fahrenheit -華氏- Ⅲ
仕事をしていて、こんなに時間が遅く感じるのは初めてのことだった。
何をしようとしても集中力が持続しない。
前を向くと否応なしに瑠華の姿が目に入ってくる。
ずっとその顔を眺めていたいほど好きなのに、それでも視線が合うと言いようのない苦しみが胸を押しつぶすように押し寄せてきて、その苦しみから逃れる為、俺はむやみにPC画面を見つめた。
俺と瑠華は―――必要最低限のやり取りしかしなかった。それも酷くそっけないもの。
その機械的なやり取りですら、今は辛い。
俺と瑠華は、単なる部下と上司。その関係に戻った、と思うとまた苦しくなる。
――――
―
いつもなら瑠華と佐々木を休憩に促す指示をする間際だった。
瑠華のデスクに内線電話が掛かってきた。
「はい、外資物流本部、柏木です」と名乗り「かしこまりました、今から窺います」と短いやりとりをして電話を切るとほぼ同時だった。
「お疲れ様で~す♪柏木さん、休憩?ランチ一緒にどーですか?♪」と二村がひょっこり顔を出した。
二村――――……
何しにきた。
ホントに俺たちが別れたのか確認しに?或は嘲笑いに?
まぁ、どっちにしても最低なことには変わりない。
こいつの人懐っこい笑顔を見るだけで握っていたペンをへし折りたい程の怒りが沸き起こってくる。
人の皮を被った
悪魔。