Fahrenheit -華氏- Ⅲ

びっくりして思わず顔を上げると、その白いものはビニール袋のようで


白いビニール袋に入った、弁当??のようなものを突きだして、相変わらず不機嫌そうな村木が突っ立っていて、


「ぅを!」素で驚いちまった。


だって村木だぜ!?


幽霊よりよっぽど怖い…って言うかこいつがこの部署で「お疲れ様」とか『怖い』じゃなくて気味悪くて仕方ないんだけど。


「あなたのことだからまだ残ってると思ってましたよ、どうせ何も食べてないんでしょう、差し入れです」と村木はビニール袋をガサガサ言わせて中から丼のパックを取り出した。


会社近くの丼屋チェーン店の、


かつ丼??


しかも二つ?


も、もしかして……


村木は二つ目も取り出し、佐々木の席へ勝手に腰掛ける。


待て。待て待て待て!


何っでこの俺様が宿敵、陰険村木と誰も居ないオフィスでかつ丼食わなきゃならない!


けれど村木は俺の動揺に少しも動じず、マイペースに丼パックの蓋を開け割りばしを手にしている。


こいつ…ここで食う気満々だな。


たちまち出汁と醤油、砂糖のシンプルながら空腹の胃を刺激する匂いが広がった。


てか、何でかつ丼。


照明が落とされたほの暗い室内。僅かに点る蛍光灯……じゃなくLEDだが、このシチュエーションは…


『田舎のお袋さんが泣いてるぞ?かつ丼でも食うか?』的な?


「村木サン、俺何もやってないスよ」と最初から自白する気なんてなくて目を吊り上げると


「は?」と村木が怪訝そうに目を細める。


「何を想像されたのか分かりませんが、単なる差し入れ、とゲン担ぎみたいなものですかね」


村木は律儀に「いただきます」と言いきっちり顔の前で手を合わせるとかつ丼を頬張った。


ゲン担ぎ―――…で、かつ丼??


「この後、神来社支社長とお約束があるのでしょう?それまで付き合いますよ」


いや、いやいやいや…


さっき一瞬『孤独』とか思った俺、どこへ行った!


Welcome KoDoKu!


こんなヤツと夜のオフィスに二人っきりなんて


イヤーーーーー!!!!


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