Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「可愛いとこあるじゃない。知ってたらちょっとぐらついてたかも」
梨々花嬢の手はすぐに離れていった。
「タイプじゃないのに?」俺が苦笑を返すと
「タイプとかじゃなくて、かっこ良すぎるひとが苦手ってだけ。でもかっこ良すぎる人がふいにかっこ悪いとこ見るとさ、こうギャップって言うの…?」
梨々花嬢は首を捻る。
「俺、かっこ悪いとこばっかスよ」
「本命の前では、ってことでしょ?そうじゃなければ完璧なあなたを演じることは簡単でしょ?」
俺は目をまばたいた。
たった二回…厳密に言うと初対面にも等しいが、何でこんな風に言い当てられるんだろう。
「私、大学心理学専攻だったの。将来精神科医になりたくて。大学卒業後、医大も目指そうかと」
梨々花嬢はイタズラっこのように小さくウィンク。
「でもね、やっぱり父に反対されて。精神科医なんて詐欺師みたいなこと、なんて言ったんだよ?信じられる?」
「そりゃ随分ひでぇな」俺は思わず”素”で顔を歪めた。
「でしょー?私の言葉で誰かが救われたのなら、私も幸せになれる。……て、辛いこともあるだろうけど、本気でなりたかった。けれどやっぱり父の反対を押し切ることができなくて、心理学専攻してたけど普通の会社勤めになっちゃったけど」
「精神科医はすっげぇ職業だと思うよ?」
瑠華は―――まだ青山にあるメンタルクリニックに通ってるのだろうか。
俺と別れたこと、先生に報告したのだろうか。
そのとき先生は何て言った?
聞きたいよ、
教えてよ
瑠華