Fahrenheit -華氏- Ⅲ
瑠華も―――迷子……?
目をまばたいていると
「梨々花」と村木が梨々花嬢を呼び
「もう!せっかちね」と村木の方を振り返る。
「じゃぁ、私はここで」と軽く手を振り、俺も軽く手をあげた。
窓の外、駐車場から道路へと抜けるその場所へ目を向けると一台のハザードを焚いたタクシーが停まっていて村木と梨々花嬢がそのタクシーに乗り込むところだった。
タクシーが去るまで、俺はその場所をじっと見つめていた。
村木と梨々花嬢を乗せたタクシーは、ちゃんと目的地があって、帰る場所があって、
きっと迷うことないだろう。
いや、今まで散々迷ったろうが、その分今度こそしっかりとした足取りで、迷うことなく目的地に着ける。
瑠華が
道案内をしたのだから。
だから―――今度は、俺が道案内…と言うか彼女と一緒に目的地に向かいたい。
―――――
――
留まったファミレスで仕事をしながら……
てかうるせぇ…
深夜近くのファミレスでは明らかに未成年だと思われる男女が喫煙室でタバコを吹かせ、大声で会話を繰り出してるし、暇を持て余しているキャバ嬢っぽい女たちがきつい香水をぷんぷんさせながら客の悪口に勤しんでいる。
まぁ元々真剣に仕事(しろよって感じだけど)するつもりもなかったから、集中する必要もなかったし。ただ時間を潰したかっただけで…
ちらりと時計を見やると23時15分をさしていて、お代わりのコーヒーを頼もうかと思っていたら
「すみませぇん」と甘ったるい喋り口調が聞こえ顔を上げると、さっき客の愚痴に忙しかったケバいキャバ嬢が俺を覗き込んでいた。強い香水の香りが鼻を刺激してくしゃみが出そうだ。
「はい?」
「お仕事ですかぁ?」
とテーブルに乗ったノートPCと書類を目配せ。俺はノートPCの蓋を閉め、書類を伏せた。
見りゃ分かんだろ、と言う不機嫌を押し隠して
「そうですが?」と愛想笑いを浮かべる。
「こんな遅くまで大変ですねぇ~」
女は俺を値踏みするようにじろじろと視線をいったりきたり。
面倒くせぇな。
と思ってる時、携帯が着信を鳴らした。
着信:紫利さん
になっていて
「ちょうど今、待ち人の”クライアント”から電話が」にっこり笑って携帯を取り
「もしもし?」と出ると、女たちはつまらなさそうに引き下がって行った。