Fahrenheit -華氏- Ⅲ


常務の言葉に一瞬場がしんとなった。


俺はごくりと喉を鳴らした。


『今日、お呼び立てしたのは、


我々は無意味な派閥争いを止めませんか、と言うことです』


常務は切り出した。


『それはどう言った意味で?』と、誰かの声があがり、いつの間にか対になった一人掛けソファに腰を下ろしていた神来社支社長がボイスレコーダーを一旦停止した。


「大阪支社の鮎原支社長ですよ」と説明をくれる。「緑川派です」と付け加えて。そしてボイスレコーダーを再生した。


『知っての通り、長い歴史の中我々は互いの血筋で自然派閥ができていたが、この派閥こそ神流グループにとって意味があるのか、とずっと考えていました』とまたも常務の言葉。


やはり―――


瓜生常務は緑川派に寝返っていた―――


村木にゃ悪いが、あいつは単に利用されたってことだな。


それはそうと


『確かに』と方々から声が上がり、少しの間どよめきが走った。


『そもそも今の神流会長は歴代の会長と違ってかなりワンマンだ』


『それはありますね』


『この所、それが目につくことが多い』


神来社支社長の説明によると、殆どが緑川派の発言だ。


『けれど会長は会社の未来を思って―――…』


『何を生ぬるいことを仰ってるのですか、伊藤支社長』と常務の言葉に、俺は眉をしかめた。


伊藤支社長―――名古屋の支社長で神流派だ。


『未来?いや今現在、いいや、今年になっていくつ支店が潰れたと言うんですか』と常務は少し語気を強めた。


少し野沈黙が流れた。


『しかし潰れる一方で新しい部署の立ち上げで、そこでかなり利益を上げているそうじゃないですか』


「これは福岡支社の森田支社長ですね、神流派の」と神来社支社長が再び説明をくれて俺は頷いた。


神来社支社長の説明はありがたかった。正直、俺には誰が誰の声だか判別できないから。


『外資物流本部、ってことですか』常務が素早く被せる。


神流派の幾人は頷いたようだ。


『それもどうだか。売り上げを上げているのは会長が直々にヘッドハンティングしたと言う、アメリカ帰りの小娘ですよ』


小娘!




瑠華のことか!!!?


< 333 / 608 >

この作品をシェア

pagetop