Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺の怒りをよそに
『その説がしっくりこないですか?』と常務が言い
『まぁ…言われてみれば、いくらなんでも切れ者だと言っても…』と方々で声が上がる。神流派も緑川派も動揺して声が入り乱れている。
それをうまくまとめたのもまた瓜生常務だ。
『でしょう?神流会長はもしかしてその“愛人”の娘の手柄を立てるために粉飾決算しているかもしれない』
『粉飾決算!』
「はぁーーーーー!!?」
今度は俺がボイスレコーダーを掴んだまま立ち上がった。
「あの親父に限って、てか瑠華に限ってそんなことするかっ!!」
思わずボイスレコーダーを壊しそうな勢いの俺の腕に紫利さんが縋り
「啓人、落ち着きなさいよ」と俺を座らせる。
「瑠華―――……?」と俺と瑠華の関係を知らない神来社支社長が目をまばたきさせ俺を見てきて
「もしかして、そのアメリカの帰国子女の……?彼女が?」
「文字通り”彼女”です。いいえ『でした』」と紫利さんが微笑み、「ほら、いちいち熱くならないで」と俺の肩を押しとどめソファに座らせる。
『しかしあの会長に限ってそこまで』と。この声には覚えがある。
専務だ。(勿論神流派)
『いや、男ってのは分かりませんよ?若くて、しかもかなりの美人と言うじゃありませんか』とこっちは一々確認しなくても分かる緑川派だろうな!下卑た笑い声をあげた。
おい!瑠華は親父の愛人じゃなくて俺の(元)彼女だ!!
と一々怒りを露わにしている余裕(?)も次の一言で
『会長の粉飾決算と言う疑いがある今、辞任してもらうのが一番です』
一気に消沈した。
なるほど、
そう出たか。