Fahrenheit -華氏- Ⅲ
『『『辞任!!!』』』
流石の発言に場はまたもどよめいたようだ。
『しかしそれはやり過ぎなのでは。会長が辞任したら私たちの席が危うい』と、これは聞かないでもわかる神流派だ。
『会社の未来を思ってですよ。このままいくと、神流ブループは間違いなく沈没する。その前に船長を変えるべきだと』
と、常務の言葉が素早く被さり
『それが緑川副社長だと?』と
誰かの発言で、再びどよめきが起こった。
『そうです、彼なら古くからの考えを捨てて斬新な会社を創り上げることができるであろうことを、私は確信しています。彼の近くにいる、この私が』
「この声は鴨志田監査役ですね」と神来社支社長が説明をくれて俺は益々眉間に皺を寄せた。
おい村木…
お前の目、どんだけ節穴よ!!
『鴨志田監査役はほとんど楽隠居状態で、監査役と瓜生常務は昔仲が良かったようです……確か同期とか言っていたような』まぁ村木のこの発言は理解しようとする。
『それが何の因果か派閥争いに巻き込まれて、取り込まれて都合の良いように使われていただけですよ、監査役は』
嘘こけ!
お前はまんまと騙されたわけだよ!
とんだタヌキ二匹だな!
俺の怒りが噴火しそうになっているそのとき
『まぁそう焦らなくても。とりあえず今は空席になっている“社長”の座に緑川副社長を据え置く、と言うわけにはまいりませんか』
と、この声は覚えがある。
田神専務。
神流派だ。
『何を生ぬるいことを仰ってるのですか。社長の座が空席なのは、会長のご子息の為。いずれ……そう長い年月じゃないでしょうけれど、彼の為に空けておいてあるのですよ』とすかさす常務の声が被さった。
『あのぼんくらの為に?』と笑い声があがって、間違いなく緑川派だろうな。
ぼんくらぁ!!!?
俺の額に血管が浮き出そうになったが、紫利さんが俺の手をまたも抑え込んで「まぁまぁ」と宥める。
くっそ…紫利さんがいなかったら怒り爆発で今すぐにも常務の所に殴り込みに行きたい気分だ。
そんな俺の心情を知っているのか紫利さんは小さく苦笑。
会話はまだ続く。
『或はその”社長”の席はその“愛人”の為にあるのかもしれない』
と誰かが言い出した。
神来社支社長に誰の声か聞こうと顔を上げると、彼はぎこちなく苦笑を浮かべ顔をゆるゆると横に振った。
神流派―――……か
『そうなったら我々の立場は危うくなる。神流派だの緑川派だの言っていられなくなりますよ』
『なるほど…』
『しかも、本当に粉飾決算をしていたのなら間違いなく“沈没”する』
マズイ……
非常にマズイ状況だ。