Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「くそっ!」
随分な言われじゃないか。
ダンっ!とテーブルを叩き、その反動でボイスレコーダーが跳ね上がった。
慌ててそのレコーダーを手で押さえる。
これは大事な証拠だ。いっときの感情で壊してしまうわけにはいかない。
「重役たちはご機嫌でクラブに来たわよ?クラブに来る前までにほとんど話はまとまっていたのじゃないかしら。比率的に言うと9:1ってところね」と紫利さんが目を細め
「私もそう感じますね」と神来社支社長も頷いた。
9:1か…
非常にマズい状態だな。
瓜生常務と鴨志田監査役にそれ程力がないと思っていたが甘く見ていた。ここまで弁が立つとは。彼らにそれ程の力がなくても団結されては意味が無い。
「紫利さん、クラブで何か他に聞いていない?」俺が紫利さんを振り返ると
「派閥のことでは何も話してなかったわ。ただ、個人個人…そうね…人には言えない秘密がありそうよ?」紫利さんは人差し指を唇にあて意味深に笑い
「そうね、この瓜生常務……かなりの女好きで、愛人を囲っていることは間違いないわね」
女好き?人は見た目に寄らないな。あんなに温厚そうに見えるが。
常務の秘書は高野と言う男だ。綾子や瑞野さんがあてがわれなかったのは、親父が常務のそう言った悪癖があることを知っていたからなのか―――
「その愛人……かどうかは分からないけれど、外で産ませた子供が一人、男の子がいるらしいわ。
あなたと同じぐらいの年齢のようよ。その子供が実際いくつで何をやっているのかは分からないけれど」
婚外子―――……?
それも俺と同じぐらいの年齢の
男―――