Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そう言えば……以前、村木が言っていた。鴨志田監査役は瓜生常務の息子を羨ましがっていた、とか。あれは本妻との子ではななく、外に産ませた子だと言うこと―――?
「その愛人との関係は今どうなっているのか不明だけれど、その悪い癖は早々直らないようね」紫利さんは苦笑。
「言い寄られた?」俺が目を上げて紫利さんを見ると
「かなり本気で口説かれていましたよ、そこは私が阻止しましたが」
今度は神来社支社長が苦笑い。
「”あれぐらい”大したことじゃございませんよ。でもお心遣いありがとうございます」紫利さんはゆるりと頭を下げた。
「でも、まぁあの感じからすると女好きなのは病気としか言えないレベルですね」神来社支社長は苦笑い。「私としてはどうしてそんな器用なことができるのか気になる所ではありますが」とのお言葉に、紫利さんが冷めた視線をちらりと送ってきた。
あ、あはは~…
俺は視線を泳がせた。
でも
婚外子
またもこの三文字が引っかかった。
「他にも色々あるわよ、出るわ出るわ。叩けば埃がたくさん。大阪支社の鮎原支社長はギャンブルに目がないようよ?今の所日本の違法カジノには手を出していないようだけれど、時間の問題ね」
「もしかしてお金の使いこみをしているかもしれない」
神来社支社長の言葉に俺は目をまばたいた。
「名古屋の伊藤支社長は今年に入って名古屋に点在する支店をいくつも赤字にさせて潰したみたいだし、その原因は定かではないけれど、女かお金どちらか絡んでるのは間違いなさそうね」
紫利さんの言った通りだな。
埃まるけだ。
俺は大きく吐息。
「やましいことがありすぎる重役たちだからね、特に緑川派は。とてもクリーンとは言い難い。彼らは個々にそれらのスキャンダルが会長にバレて辞任に追い込まれる前に何とか手を打ちたかったに違いない。だからこの機に乗じて神流派を巻き込んだ可能性もある」
「くそっ!」
俺はまたも悪態をついた。
親父は粉飾決算なんてしてないし、ましてや瑠華は親父の愛人なんかじゃない。
奴らは「それらしい穴」を見つけて、もっともらしい言い訳で親父と瑠華を陥れようとしている。