Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺は以前、瑠華と親しくなる前
肘から上、手首から10㎝程のところに防水性の白い大きな絆創膏が貼ってあったのを見た。
最初は何とも思わなかったが、どうにもその場所が不自然で俺が問いただしたら、自分で切ったと言う―――
今、瑠華が押さえている場所はまさにその位置―――
手の怪我もそれが理由―――……?
「ご…ごめんね、柏木さん!強く掴んだつもりは無かったんだけど」
と、二村はたぶん本気で慌てた様子。力を緩めただろうが、その手は離れて行こうとしない。
「触らないでください」
瑠華が小さく答えた。
「……え?」
本当に聞こえなかったのだろう、二村が目を開いて耳に手をやった。わざとらしさは感じられない。
「All of them!? (聞こえなかったの!?)
All of them!? (触らないでって言ったのよ!)」
瑠華が半ば叫ぶように言って
「え……えっ…?」二村が困惑したように戸惑いの表情を浮かべる。
隣の物流管理本部から、瑠華の叫び声を聞いたのだろう、何事かパーテーションから数人が顔を出していた。佐々木もびっくりしたようだ。
「『触らないでください』って言ったのです。離してください」
瑠華が慌てて小声で言うと
もう―――我慢がならず
俺は瑠華の手を掴んでいた二村の手を引きはがした。
触るな。
そのキタナイ手で
触るな。
「二村、その手を離せ」
俺は自分でも驚く程低い声を出していた。