Fahrenheit -華氏- Ⅲ
結局、チケット代はあたしが払うと言うことを譲ってはくれず(まぁ元はあたしのお金だからいいのか?)それを受け取りあたしたちは入館した。
三つ折りのパンフを開くと、館内は3階建てのようだ。
屋上にイルカショーの水槽がある。
「イルカショー13:30からだって!ねぇねぇ!絶対行こうよ」と葵さんは顏を輝かせる。
「お任せします」
あたしにとってはどうでもいいことだ。
最初に入ると『海獣のコーナー』に入った。海獣とは言っても、可愛らしいアシカやアザラシが思い思い水槽の中を泳いでいる。
くるくると泳ぐ彼らは可愛らしい。
そこから『古代の海』へ移動し、リアルな水槽はなく、深海6500メートルの様子をジオラマと三次元の立体映像で再現してある。
可愛らしかったアザラシとは一変してこっちは随分とグロテスクで(とりようによっちゃユニークとも言える)見ていてもあまり感動を覚えなかった。
光と音のない死の世界で、様々に泳ぐ魚たちは俺の目に奇異なものにしか映らなかった。
明るかった館内が一気に暗くトーンダウンしていて、危うく葵さんにぶつった。
「すみませ…」
言いかけた言葉を、葵さんはちょっと苦笑いを浮かべ
「ここの造りってどうしてこー、ちょっと危ないんだろうねー。
前も…て言うか最後に来たとき中学生のときだったから十年ぐらい前の話だけど、変わってないな~
一緒に来てた女の子が転びそうになってさ~」
「最後に…?」
目だけを上げると、ほの暗い照明の中、葵さんがちょっと苦笑する顔が浮かび上がったいた。
「あー…うん、最後の?この水族館に来た時の話。
空汰と、ミミちゃんともう一人女の子と四人でダブルデートしたんだよねぇ。
空汰はマジでミミちゃんにぞっこんでサ、デートに誘いたいけど二人っきりじゃ恥ずかしいとか言って…んで、強引に誘われたの」
………
思わず少し沈黙してしまった。