Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「では今どこにお住まいなのですか?」と聞くと(聞かなくてもいいことなのに思わず聞いてしまった)
「アパート借りた。6畳一間。信じられる?イマドキ風呂無し、トイレは共同、まぁ家賃は3万5,000円だから文句言えないけど」
都内で3万5千円は破格だ。
でも…
「そんな粗悪な場所で生活を?」
「まぁ瑠華ちゃんからしたら粗悪かもしれないけど、意外に気軽って言うか。女に気を使わなくて済むしね」
そう言うものなのか…
まぁあたしも一人で気楽だけど。
「でもさ、ここだけの話、そこ事故物件なんだ」
と葵さんは内緒話をするようにこそっ。
「事故物件……と言うのはそこで死人が出た…と言う?」
思わず顎をひくと
「そ。だから安いってのもあるけどさ~、ま、俺は霊感とかないし?今の所それらしいの見たり感じたりしないし、何より安いし。風呂は近所にある銭湯に行ってんだ。これまた古い銭湯だけどさ~、意外に入り心地が良いって言うか」
「そうですか、でも毎日だとお金もかかるでしょう?あなたは今お仕事は何をなさってるのですか。
ハッキリと言いますが、私に寄生しないでくださいね。私たちはあくまで利害関係が一致しただけ。
”仕事”が終わったらお金は払いますし、必要経費だと思えば出し惜しみしません。
けれど”そう言う関係”を望んでいませんので」
とハッキリと言い切ると、葵さんは「あはは!」と声をあげて笑った。
近くにいたカップルらしき男女が何事かこちらを見ていて、今すぐこの場から立ち去りたい気持ちに駆られた。
「やっぱ瑠華ちゃんておもしれ~!大丈夫、ダイジョブ!寄生する…てかヒモ?になる気はないし。
それに今はキャバクラのボーイしてる。週4日」葵さんは指を四本立てた。「これが結構時給が良くてさ~」
「なるほど、その”気になる”お相手はそこのキャバ嬢ですか。可愛い女の子揃いですしね」
「まさか」葵さんは手をふりふり。「ボーイとキャストが恋愛関係になるなんてご法度よ?」
「そうなんですか?」
「そりゃそーさ~、大事な”商品”に手を出しちゃマズいっしょ」
女性を”商品”扱いするのはいただけないが、その世界ではそれが通常なのだろう。あたしは敢えて黙った。
「何?もしかしてヤキモチ?」
葵さんはニヤリと口元に笑みを浮かべた。