Fahrenheit -華氏- Ⅲ
二階は『ジャングル・ワールド』ではじまった。
南米のアマゾン、東南アジアの大河、アフリカの河川・湖沼には、小さなグッピーから2mを越えるピラルクや大ナマズたち。
あまりロマンチックとは言い難いけれど、あたしはロマンを求めていない、興味深さが勝った。
説明書きには『アマゾン河は、日本の国土の18倍という世界最大の流域面積を誇り、その魚類の豊富さは大西洋を上回るとさえいわれています。』
と書かれていた。
熱帯の密林を流れる大河を、鬱蒼と繁った植物とともに切り取ってきた大水槽。
水面より上のスペースが多く、木や草の他、滝や朽ち果てた吊橋などを配置してある。
そして、ここでは熱帯雨林の気候の一日を、夜明けから夜までシミュレーションしてあって、霧・風・スコール・落雷・虹などが約10分間隔で演出されていた。
行ったことのない世界。
あたしはさっきまでの苛々を吹き飛ばし、食い入るようにその水槽を見つめた。
特にピラルクには強く惹かれた。決して美しくない、どちらかと言うと平たい顔にテラテラと光る体はグロテスクの部類に入る。
「気に入ったの?」
葵さんが声を掛けてきた。あたしは顏もあげず
「ええ、まるで私のようで」
静かに言うと
「瑠華ちゃんは違うよ」と葵さんは即答した。「瑠華ちゃんはさっきの熱帯魚よりきれいだよ」と付け加えて。
流石、女たらし。その台詞、慣れてる感じがする。とりあえず褒めておけばいい、とでも思っているのだろうか。
だからこそ、
きれい―――と言われて喜ぶべきなのか。
いいえ、今は何も感じない。
「いいえ、違わなくないです」
だってあたしは―――お金で葵さんを釣って利用している―――
醜い、
女だ。