Fahrenheit -華氏- Ⅲ

「俺たちまだ付き合いたてほやほやで、カノジョ緊張してるみたい」と葵さんはあたしの肩に手を回したままにこにこ。


緊張?


て言うか付き合ってないし。


「それは素敵なことですね♪」と不穏な空気を読むことなくスタッフさんはにこにこ。


結局、かなり強引に写真を撮らされた。


葵さんのスマホで撮ってくれた写真と、首にぶら下げていた一眼レフで撮られた写真。


一眼レフで撮った写真は30分後、現像して水族館のイメージキャラクターが乗った枠にきれいに収められ、一枚1,000円するらしい。


「いかがですか?記念になりますよ」とスタッフさんにニコニコ勧められ、


「いえ…」結構です、と言い切らないうちにまたも葵さんが


「じゃぁ二枚♪」と指でピースサイン。


「ちょっ…私は買いませんよ」と葵さんを睨むと、「俺が買うからいいよ~」と葵さんはへらっと笑う。


「それもこないだ私が渡したお金からですか」半ば呆れて分かりやすくため息をつくと


「お金はお金だけど、前働いてた運送会社のバイト代もあるしサ」と葵さんはあたしの嫌味にもまったくめげずに明るく笑う。


ダメだ…この人に何を言っても無駄だ、と。一体何度そう思ったことか。

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