Fahrenheit -華氏- Ⅲ
さっきと同じ様に客たちを相手に写真を撮っていたスタッフさんに
「すみませ~ん」と葵さんが気軽に声を掛けると「お待ちしてました~♪」とスタッフのお姉さんはにこにこ笑顔で出来上がった写真をあたしたちに手渡してくれた。
出来上がった写真の中、葵さんは全開の笑顔に対して、あたしは無表情……と言うか不機嫌?そう。
「う゛~ん…瑠華ちゃんの表情がイマイチだけど、可愛いからいいや」と言って葵さんは納得して、その一枚をあたしに渡してくれた。
「どっかに飾っておいてね」とウィンク。
「まぁ…はい…」
飾ることはないだろう。すぐにどこかのチェストの引き出しに眠ることになりそうだ。
そして、その後あたしたちはウミガメの水槽(半分が砂浜になっている)所や、ザリガニコーナーでは、害のないザリガニたちを手で触れる水槽なんかを見て回った。
葵さんは「見て見て!」とザリガニを取りあげていたけれど、流石にあたしは触れるのは無理。
けれど、そんな無邪気で明るい葵さんと居ると、何故か心の疲れが少し取れてきたがした。
不思議だ…
水族館の最後は、お土産ショップだった。
イルカやあしか、ペンギンなんかのぬいぐるみは勿論、携帯ストラップやキーホルダー、ペンなんかのステーショナリーや、箱に入ったお菓子が売っている。
目的もなくふらふらと店内をうろついていると、ふとイルカのミニチュアが入った小さなスノードームを見つけた。
青いイルカが二匹、葵さんと写真を撮ったパネルのように並んでいて、小さく振ると雪の結晶がふわふわときれいに舞う。
きれい……
雪の中を泳ぐイルカのように見えた。
あたしがそのスノードームを眺めていると
「瑠華ちゃん、見て見て♪これ可愛くない?」と葵さんがあたしの背後でイルカのぬいぐるみをふりふりしている。
「……ええ」
あたしは曖昧に頷き、再びスノードームに目を向けた。
何故、あたしはこのスノードームが気になるのだろうか。
値段にして3,000円ちょっとと言うところだ。躊躇する値段でもなかったけれど、買った所でどこに置くか悩んだ末、どこにも置き場がない、と言うかインテリア的にどこもしっくりこなくて、結局やめた。
あたしは
「帰りましょう」と言って葵さんを出入り口に促すと、
「……うん」葵さんはちょっと悩んだのち、
「ごめん先行ってて、俺トイレ」と言って戻って行った。
言われた通り先にショップから出て、広い出入り口ゲートのあるフロアで待っていると、葵さんが慌てて走ってきた。
「そんなに急いでどうしたんですか」
「いや…俺がトイレ行ってる間、瑠華ちゃん帰っちゃわないかな~とか思って」
「水族館の入館料金を出してもらったうえ、色々してもらったのでお礼も言わずに帰るわけがありません」とキッパリ言うと
「あはは、瑠華ちゃん律儀だな~」と葵さんは頭の後ろに手をやって笑う。
水族館を出ると、空はすでに夕暮色に染まっていた。