Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺たちが応接セットに落ち着くと、すぐに梨々花嬢がお茶と俺が買ってきたゼリーをこれまた小洒落た皿に移し替えて持ってきた。
「お父さん、一個にしておいてよ?こないだの健康診断で血糖値が高かったでしょう、お母さんが心配してたよ」
「分かってる、お前はいちいち小うるさい」村木は眉間に皺を寄せ梨々花嬢を睨む。
梨々花嬢はムっと顔をしかめ、けれどその不機嫌を仕舞いこみ俺ににっこり微笑みかけ
「ごゆっくり」と言って立ち去っていった。
さて、と言う具合に俺は早速神来社支社長が録音してくれたボイスレコーダーを村木の前にずいと差し出した。
俺が何度も聞いたその会話を耳にして村木の眉間に皺が寄った。
そりゃそうだろう。
村木の事可愛がっていてそれなりにかっていた上司の化けの皮が剥がれたのだから。
だけど
「神流部長、あなた”ぼんくら”呼ばわりされてますが?」
え?食いつくとこそこ!?
まぁ?裕二を含む同期三人にも散々バカにされたし、俺自身もムカついたが。
「私はそうは思いませんがね。本当の”ぼんくら”だったら大事な娘をやろうとは思いません」
村木―――……
お前、トキドキ良いこと言うな!
ありがとな!俺は初めて村木の前で泣きそうになった。
「しかし、瓜生常務がこんな方だったとは未だに信じられませんが、間違いなく彼の声ですし」
「紫利さんの話に寄ると常務には婚外子がいるみたいです。あなたもそれを知っていた」俺が目を上げると
「知っていたわけじゃありませんよ。瓜生常務と鴨志田監査役の話の中で常務の子供は出来が良いと監査役が羨ましがっていられただけで、私にはその子供の検討もつきません」
まぁ、そりゃそーだよな。