Fahrenheit -華氏- Ⅲ

村木は湯気のたつ緑茶をゆっくりと啜り


「私がそれとなく探ってみましょうか。常務は私に気を許していると思いますので」


村木の提案に俺はパっと顔をあげた。


「でも期待はしないでくださいよ?あくまで”気を許して”いたのなら、と言う話なので」


村木は横柄に腕を組む。


「いえ、助かります」俺は素直に礼を述べた。


はじめて村木が頼もしく思えた。


「しかし、この会話によると少し分が悪いですね」村木はすぐに渋面を浮かべる。


「少しどころか、かなり、ですね。神流派の殆どが緑川派に寝返りそうだ」


「粉飾決算に愛人問題、私はそんなこと信じませんがね」


「当たり前ですよ。親父が粉飾決算なんてしないし、瑠……柏木さんは親父の愛人じゃない」


「あなたの恋人ですしね」


村木は表情無く答えて


「失礼、”元”でしたね」とニヤリと不敵に笑い付け加える。


うっせぇ!一言余分なんだよ!やっぱ村木だな!


「この話の流れによると発起人は瓜生常務で間違いなさそうですね。私を可愛がってくれたのは嘘だったと言うわけですか」


村木は深いため息をついて額に手をやる。


「いえ……村木…部長を可愛がっていたのは事実だと思います。


ただ―――ひとには二面性があるんですよ。表の顔と裏の顔」


村木、あんたもだ。


表では『女は』と卑下しながら、その実奥さんと娘を大事にしている。


それは造られたものではなく、どっちもホンモノだ。


俺は村木のそう言うとこ、嫌いじゃない。


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