Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そう言うわけで村木との話は終わった。
話し終えて俺は三分の二程残ったゼリーをゆっくりと味わおうとしたが、村木がじっとこちらを見つめて…?いや睨んで?いる。
何…
そう思っていると
「お茶のお代わりいかがですか?」
と村木の奥さんが顔を出した。
「お前は休んでいろ、と言った筈だ。まだ足は完治してないのだろう」
「でも、大切なお客様ですし。あなたがゼリーをもう一つ欲しいのかと思って持ってきたのよ?」と奥さんは内緒話をするように、小皿に乗ったミカンのゼリーをちらちらとチラつかせる。
「梨々花に止められたんだけどね、今日だけはね」
奥さんは俺の方を見て口元に手をやり微笑む。
その顔はまるで悪戯っ子のように笑っていた。
村木は「うん」も「すん」も言わず奥さんから小皿を受け取る。
「今日だけよ」と奥さんは釘を差し、立ち去って行った。
「あなたにも弱点?とかあったんだ」俺は若干”素”を出し苦笑い。
村木は「むぅ」と唸りながらも、大人しくみかんのゼリーにスプーンを通す。
「そうだ、今度うまいマドレーヌ差し入れしますよ」
「マドレーヌ?」村木が目をまばたいた。
「ええ、あれはうまかった」
キーパーソン、瑞野さん。
俺がやるべきことは二村の動向を探ること、そして瑞野さんに近づくことだ。
これはセットでやらなければ意味がない。
俺の口元に、ふっと笑顔が浮かんだ。