Fahrenheit -華氏- Ⅲ
紫利さんの教えてくれた彼女の家をナビ通りに走らせると、白金台の周りは閑静な住宅街になった。
いかにも高級そうなマンションや、古くからの一軒家が目に入る。
その一角に年代を思わせる、しかしながらひと際立派な豪邸の前で紫利さんが手を振っていた。神流のおじさまの家も豪邸だけれど種類が少し違う。けれどしっとりしたレトロな雰囲気がまたステキだった。
茶色のレンガの外壁の前、ギンコイエロー(銀杏色)のコートを肩に羽織り、グレーのニットの首元にグレーと黒のオシャレなストールが巻き付けられていて、ボトムは色の濃いジーンズと言う姿。
ああ、やっぱり服のセンスも最高にステキ。そのファッションにしっくりと合う豪邸もステキ。私もオシャレしてきて良かった。
車を紫利さん宅の前に横づけし、パワーウィンドウを開けると
「ごめんなさい、分かりづらかったでしょう」と紫利さんは顔の前で手を合わせる。
「いえ、ナビがありますので」
「どうぞ、入ってください」あたしが促すと紫利さんは車の扉を開け、入ってきた。
彼女が車内に入ると芳しくも妖艶な香りが漂ってきて、それだけで彼女の色気に酔いそうだった。
「誘ってくれてありがと」
彼女は気さくに笑った。
「すみません、突然に」
「いいえ、暇な主婦だもの」紫利さんはぺろりと舌を出す。「ところで行先は?」
との質問に
「すみません、それもまだ決めていません」と言い謝ると
「とりあえず行けるとこまで行ってみましょう?目的のない旅、面白そうじゃない」
目的のない旅―――