Fahrenheit -華氏- Ⅲ
料理が全て揃い、食事をしながら、あたしは結局昨日何をしていたのか話した。
最初から隠す気などなかった。勿論、昨日のことを話すと言うことは葵さんとどう言ったいきさつで出会い、どんな経過でそうなったのかも説明した。
「まぁ、そんなことを?」紫利さんは巻き付けていたパスタを口に運ぶ途中でフォークを止めた。
「それにしても二村……くん?も周到と言うか……気味が悪いぐらい策士ね。
結果、あなたの方が上回ったけれどね。相手が悪かったようね」と紫利さんはにっこり微笑み、パスタを口に入れた。
「美味しい。ワインが飲みたくなるわ」
同感だ。
あたしは紫利さんにアルコールを勧めたけれど、紫利さんはあたしが運転することを気遣ってくれて自分も飲まないと言っていた。
「でも……退きません?あたしは…葵さんをお金で買って……最低ですよね」
シェアしたピザの一切れ、その半分であたしの手は完全に止まった。
パン生地が喉に詰まったように思えて、ミネラルウオーターでそれを流し込む。
「そんなことはないわよ。だって男を買ったわけじゃないし、20万円にはちょっと驚いたけれど、情報料と思えば安いんじゃないかしら?」
紫利さんは悪戯っ子のように微笑み、「ほら、もっと食べて」とパスタをあたしの取り皿に移す。
「金曜日の重役会議ね、瑠華ちゃんが言ってたように確かに彼らは来店したわよ」紫利さんはピザの一欠片に手を伸ばしながら
あたしはミネラルウオーターのグラスから口を離し、思わず紫利さんを仰ぎ見ると
「神流派と緑川派の比率は1:9ってとこかしら。
正直、啓人から瑠華ちゃんに話すの黙っておいてくれって言われたけれど、黙っていられる内容じゃないしね」
啓―――……どうして―――…
「啓人は瑠華ちゃんを守りたいのよ。傷つけたくないって―――言ってたわ」
紫利さんは悲しそうに眉を寄せた。
傷つけたく―――ない……?
「あなたたち見てると、まるでロミオとジュリエットみたい。
お互い好き同士なのに、すれ違っちゃって」
ロミオとジュリエット……
「啓は―――まだあたしのこと、好きでいてくれてるのでしょうか。
今のあたしには、もう分かりません」
あたしはかじりかけのピザを取り皿に置き俯いた。
ピザはすっかり冷めきっていた。
啓の―――あたしに対する気持ちのような―――気がした。