Fahrenheit -華氏- Ⅲ

台風の夜。


♠ K ♠


20XX年11月14日


昨日、瑠華の車とすれ違った。


最初見間違いかと思った。けれどこの東京でレクサスのLFAを運転しているのは瑠華しかいないだろうし、何より顔をはっきり見て目だって合った。


けれど瑠華はふいと顏を逸らし、何事も無かったかのように立ち去って行った。


当然のことだろうが、胸の奥がじくじくと痛む。


何故、こんな広い東京で、あんな狭い道ですれ違ってしまったのだろう―――


運命の神様はどこまでも意地悪だ。


ただでさえ気持ちがすれ違っているのに、車ですらすれ違うなんて。


重い気持ちを引きずりながら、それでも朝はやってくる。


いつまでも時間をずらしてバラバラ出勤と言うのは不自然過ぎる、と思ったのは俺だけではなく、瑠華もだったようで、その日俺らは俺たちがまだ仲が良かったときのように、俺が出社してすぐに瑠華が出社してきた。


地元新聞に英字新聞、経済紙を抱えながら、いつもと変わらないスタイル。俺がデスクの上、PCの電源を入れている最中のことだった。


「おはようございます、部長」丁寧に挨拶をされ


「お、おはよっ…!」俺の声は変な風に裏返った。


瑠華は昨日すれ違ったことなど知らないように、当たり前のように彼女もPCの電源を入れ、英字新聞を開けている。手には最近出来たコーヒーショップの紙カップ。


「あ、それ……最近できたコーヒーショップの?」


聞かなきゃいいのに、この変な空気を何とかしたくて声を掛けると瑠華はゆっくりと顔をあげた。


昨日、すれ違ったときと同じ様に


またも、目が合った。


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