Fahrenheit -華氏- Ⅲ


「ええ、そうですが……結構おいしいと緑川さんが…」


言いかけて瑠華は慌てて口を噤んだ。瑠華には珍しく失言をしたと言った感じで慌てて口元に手をやる。


そう―――だった……


瑠華と別れる間際、彼女に『緑川には近づくな』と言ったんだった。


俺としては(一方的に?)いがみ合っていた二人がこうやって仲良くしてくれるのは良いことだが、二村のヤツが何でそう言ったのか結局の所分からず。


俺の気持ちを読んだのか、そうではないのか、或は怒ってるとでも思ったのか


「すみません、今後慎みます」と瑠華はきっちりと頭を下げた。


違うんだよ。


違う。


瑠華が謝ることなんて何もない。


けれど、何も言い返せない。


何も出来ない俺は自分に嫌気を覚え、ぎりりと拳を握った。


結局俺は


「――――……うん…」


と短く答えることしかできなかった。


―――


――――


佐々木が出勤してくるまで重苦しい空気を引きずったまま、俺たちはただ無言でPCに向かい合っていた。


き、キマヅイ…


佐々木が出勤してくるまでの一時間の間、俺は意味も無くタバコで三回も席を立った。


瑠華は一度だけ。トイレかタバコのどちらかで。


「おはようございまーす」


ようやく佐々木が出勤してきて、俺はほっとため息をついた。


一体、この日々をどれだけ繰り返せばいいのか…


早く…


早く元に戻りたいよ。

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