Fahrenheit -華氏- Ⅲ
佐々木が出勤してきて、いくらか空気が和んだ気がする。
瑠華が「貸してくださったDVD順調に見ています」と話しかけ
「ホントですか?面白いでしょう?」
「ええ、分かりやすいし」
と、前はあまり佐々木と雑談しなかったのに、最近二人の会話が増えた気がする……
それがちょっと悔しくもあり、悲しくもある。
そして少しの焦燥感。
瑠華が佐々木に―――……
いやいや、例のハニートラップの男だって、どうなるか分からない。
瑠華の気持ちをどう引き止めていいのか、分からないよ。
その日の午前中も仕事をするだけならまだしも、すぐ近くで同じように仕事をこなしている瑠華を視線の端に入れると心臓がズキズキと痛み、あまり集中できなかった。
通常通り、瑠華と佐々木が休憩に入り、入れ違いに俺が入ろうとすると8Fフロアの廊下の奥まったところでひそひそと男女の話声が耳に入ってきた。
別に―――
立ち聞きするつもりはなかったけれど…
「ホントに!」
この声は―――…
二村?
思わず立ち止まり柱の影に身を潜めた。
「………うん、まだ確定じゃないけど…」
と、頼りなげな
緑川―――……?
の声が聞こえてきて、俺は息を殺し、眉間に皺を寄せた。