Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「それは嬉しいよ!」
二村の声は弾んでいた。
「……でも…まだ確定じゃ……」
「じゃぁ今度病院行こう!俺、ついてくし」
病院―――…?
俺が顔をそっと柱から出すと、こちら側に背を向けていた二村は当然のこと、緑川も俺が話を盗み聞きしていることには気付いた様子はない。
「え…いいよ、恥ずかしいし。それにもし違ったら…」
「その時はそのときだよ。葉月が心配だからさ」
二村は緑川の頭をぽんぽんと撫で、
「……じゃぁ…付き合ってくれる?」と緑川が上目遣いで二村を見つめている。
「勿論!」
二村は嬉しそうに答えた。
二人はそこから二、三会話をして互いに別の方向へ立ち去った。
病院。
そのワードが引っかかる。
妙に浮かれていた二村。その反対に緑川は戸惑っている様子でもあった。
病院
もう一度そのワードを考え
「もしかして…」
俺は口元に手を当て目を開いた。
緑川が
妊娠―――……?
一番恐れていたことが、やってきた。
緑川に二村の子供ができれば、緑川は二村と結婚。さすがにあのタヌキ緑川副社長も堕ろせとは言わないだろう。
大事な愛娘だ。その愛娘が二村の事を好いている。
しかも二村は物流管理本部のホープだ。若造とは言え、出世街道を突っ走っている二村のこと、受け入れないわけない。
こうなったら緑川副社長の後がまは
二村だ。