Fahrenheit -華氏- Ⅲ
昼休憩間際、人事部から社員全員に一斉メールが届いた。
内容は
『大型台風接近の為、社員は全員定時に帰る様に。
尚、交通機関が麻痺して帰宅できない社員が出てくることを予想をされる場合、管理職の判断で業務中であっても定時前に帰宅命令を下すこと』
「ぅわー…降ってきましたね、とうとう」
昼休憩を終えた佐々木が戻ってきて、ブラインドをスラットの一枚をちょっと下ろし窓の外を眺める。
俺も少し覗いたが、昼とは思えない程、その景色は暗く淀んでいた。
俺はPCのインターネットのウェザーニュースで台風情報をチェックしたが、今の所交通機関に乱れがないことを知った。雨は降っているが、風は止んでいる。
少し様子を見るつもりで、俺も昼休憩に入った。
社食は混んでいた。通常ならこの時間帯人がまばらだって言うのに、営業職の人間は殆ど外回りを諦め、それ以外の人間も外食を諦めたってところだな。
ま、俺もそのうちの一人だが。
今日の定食はイマイチだった。惹かれるものが何もない。
結局、この場所で一番うまい筈の”カレースパ”を注文したが、時間が時間だけに麺はパサパサ、カレーは煮込み過ぎてただの濃い味しかしなかった。おまけに麺にからまってない、所々カレーの塊ができていた。
社食のおばちゃんたちも早く帰りたいのは分かるけど、それにしても
「杜撰だな」思わず独りごちると
「同感ですね」と背後から声が掛かった。
顔を上げると、陰険村木が相変わらず顔色悪そうな不機嫌顔をしていて、その手には今日の定食「アジフライ定食」が乗っていた。
まだ食ってもいないのに分かんのかよ。と思いつつ、まぁ?見た目的にもそれはうまそうに思えなかったが。アジフライは身が薄っぺらそうだし、おまけに衣がギトギト脂ぎっている。
まさか隣に座るんじゃんだろうなー…と思ったが、村木は俺に背を向け、長机の俺のちょうど背中合わせになるよう座った。