Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「部長…?」
瑞野さんの問いかけではっとなった。
何やってるんだ、俺!!
「いや!ごめんっ!」
慌てて言ったが、耳を塞がれている状態で俺の声が届いていないのは明らかだった。
瑞野さんは俺の言葉に目をきょとんとさせている。
もしかして、瑞野さんは髪にキスされたこと、気付いていないかもしれない。
俺、相当だな。瑠華に似てるってだけで、髪にキスとか……
それからも雷は鳴り続けたが、音は徐々に遠ざかっていった。瑞野さんは最初の方、俺の手で塞がれていても音が届いたようでその度にビクリと肩が震えたが、音が弱まってくると、それもなくなり少し落ち着きを取り戻したようだ。
まるで頃合いを見計らったように、パっとエレベーターの照明が点灯した。
俺たちは二人揃って天井を見上げた。
『大変お待たせいたしました。ただいま自家発電に切り替えましたので、これでエレベーターは正常に動きます』と同時に、エレベーターが降下する震動と音を尻で感じ取った。
俺はゆっくりと瑞野さんの両耳から手を離した。
「瑞野さん、復旧したみたいだよ」
俺が笑いかけると、瑞野さんは頬に伝った涙を手のひらで撫でながら
「……すみません…ご迷惑をお掛けして…」と鼻をすすりながら頷いた。
「もう大丈夫?」俺が聞くと、瑞野さんはゆっくりとだが頷いた。