Fahrenheit -華氏- Ⅲ
エレベーターはゆっくりだが何とか一階に到達した。
ようやく狭い箱から抜け出せた俺たちは、やはり照明が落とされたがらんどうの暗いロビーの中
「ところで瑞野さん、帰りは大丈夫?」と俺は気になってたことを聞いた。
「あ!」
瑞野さんは口元に手をやり慌ててスマホを取り出す。
その画面を見つめて一瞬…そう、ほんの一瞬だが彼女は顏をしかめた。
けれど、一秒後にはいつもの表情でスマホの上で指を滑らせ
「やだ……JR…止まっちゃってる…」と目を開いた。
「マジ?」
瑞野さんは俺の問いかけにまたも泣きそうな目でこくこくと頷いた。
「俺の車で送ってあげてもいいけど、高速も下道もどうなってるか分からないから、付近のホテル探してみよう」俺が提案すると瑞野さんは頷き、自身のスマホであれこれ検索した。
俺は持っていたノートPCで(その方が早い)付近のホテルを探したが、同じことを考える人間が多いと言うわけで、どのホテルも空室はなかった。
「くっそ」
思わず悪態をつく。
「こっちもダメです……どうしよう…」と瑞野さんが弱々しく言い俺に顔を向けてきて
「こうなったら最終手段だな」俺はため息をついた。
「最終手段?」瑞野さんが目をぱちぱち。
「会社に泊まろう」