Fahrenheit -華氏- Ⅲ
瑞野さんは最初戸惑っていた。
「部長……あの…泊まるって…どこで…?」
「幸いにも今は誰もいない。会議室や応接室どこでも使える」
俺が天井を指さすと
「だけど……こんな広い会社にあたし一人で……
ちょっと怖いです…」
瑞野さんが眉を寄せ、またも泣きそうに目を潤ませた。
「大丈夫、大丈夫。俺も泊まるから。つっても部屋は別だから安心して?」俺がへらっと笑いかけると、瑞野さんは首を横に振った。
「また……雷が鳴ると思うと怖い……
部長……傍に居てくださいませんか?」
へ―――――!?
瑞野さんのぶっ飛んだ……いやいや、これは窮地に立たされた人間の当たり前の行動&心理なのか?
発言にしばらく何も言えなかった。
「あのっ…!迷惑は重々承知です、でも一人じゃ怖くて」
「いや……いいけど……でも…瑞野さんがイヤじゃないの……?」俺が探るように目を上げると
「いえ、部長だと安心します。
部長が―――いいんです」
瑞野さんの頬は暗闇の中でも分かる程、顔を赤くしていた。