Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「まぁ綾子も仕事人間だからなぁ。でもあんま真似なくてもいいと思うよ。綾子は綾子。瑞野さんは瑞野さん。二人とも違うわけだし」
俺の言葉に瑞野さんは少しの間、目をまばたき、やがて小さくふっと笑った。
「やっぱり優しいです、部長は……」
「そう?」俺はわざとチャラけてへらっと笑ってみせた。「俺の部署でそんなこと言われたことねー、いつもちゃらんぽらん上司扱いだからな」
「部長は優しいですよ?こうやってあたしに付き合ってくださって。本来なら面倒とか鬱陶しいとか思う筈なのに」
面倒……鬱陶しい…??
そんな風には思ってないけど。ただちょっと、戸惑っている。
タバコを吸い終わったら、今度は空腹が目覚めた。俺の腹が小さく鳴って
「あの……これ…少しですが」と瑞野さんはバックの中からカロリーメイトの箱を取り出した。
「え?でも、これ瑞野さんの分じゃ?」
「いえ、あたしはお昼休み取れないこともあるので常備してあるだけで、今日は昼食もしっかりいただきましたので」と瑞野さんはずいと渡してくる。
でもそれは俺も同じ状況だ。昼飯はしっかり食った。まずいカレーパスタだったけどな。
「じゃあ、半分こしよう」俺は二本ある内の一つを瑞野さんに手渡し、瑞野さんは恐縮したように受け取ったが、その顔にははにかんだ笑みが浮かんでいた。
さっきまでの恐怖心は少しばかり和らいだようだ。
カロリーメイトのお礼と言うことで、俺は自販機で瑞野さんにホットココアを奢った。
「……おいしい」
瑞野さんは缶ココアを両手で包みながらほぉっと息をつく。
何だかなぁ…
女の子…しかもかなり…てか超?(の部類に入る)可愛い女の子の仕草って萌えるよな。
これが瑠華だったら即行で抱きしめているが、瑠華は生憎だがそんなタイプじゃなくジョッキビールを一気に半分開ける程だからな。
男前!きゅんっ!
……って、一々瑠華と比べ過ぎ俺。