Fahrenheit -華氏- Ⅲ
そんなことをしているうちに会社の自家発電も完全に回復したようで、応接室は明るすぎる程の照明に包まれた。
東京自体の停電はまだ復旧しておらず、相変わらずJRなんかの交通機関は麻痺したままだが。
「部長……明日母が来る件で…」
瑞野さんが切り出してきて
「うん、覚えてるよ」
「あの…すみません、本当に。母は言い良い方にとっては義理堅いんですが、悪い方にとったら頑固で…」
「いいよ、いいよ。嬉しいよ、そう言う気遣い」俺は笑った。
俺の発言に瑞野さんはほっとしたようだった。
ただ―――
明日は11月18日
何故だ。
何故、この数字が引っかかる。
俺は知らずの内に難しい顔つきをしていたようだ。眉間に皺でも寄っていたのだろうか瑞野さんが
「あの……本当に無理を言って…」
と謝ってきたが
「いや…大丈夫、大丈夫!ごめんね…俺、考え事すると怖い顔?になるかも??」
とわざと明るく言うと
「怖くなんてないですよ」と瑞野さんも笑った。
俺は会社用の携帯を開いた。スケジュール管理も携帯に入っている。
開いたところで、瑠華と佐々木から
『無事に帰りました。お気遣いありがとうございました。』と瑠華から
『無事、家に着きましたー!』と佐々木から、それぞれメールが届いていて
「ぅをっ!」俺は小さく声をあげた。それぞれのメールは二時間前になっている。
俺は額に手をやった。危険にさらさないように、と早く帰したのに最後の最後の安否確認怠るなよ、って感じだよな。
「どうされたんですか?」と瑞野さんが心配そうに目を上げる。
「いや、業務連絡。やっべ、返信しねーと」と慌てて携帯のボタンに指を走らせた。