Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「えー、どうなんだろ。付き合ってる風には見えないけど?」と違う声が聞こえ
「何で?」とまた違う女性の声。
どうやら三人の女性社員が洗面所の鏡の前で…きっとメイク直しでもしているのだろう、噂話に勤しんでいる。
「何でって、だって柏木補佐って超冷たいじゃん?」
………
「男にも女にも」
………
当たってるだけに何も言えない。
でも、これじゃ益々出て行けない。
早く帰ってくれないかな、と思っていても女性社員のお喋りは止まる様子がない。
「柏木補佐ってさー、見るからに高そうな服や小物着たり持ったりしてるじゃん?お金掛かる女て思われるんじゃない?ああゆうタイプは彼氏いないって~
あの人男の社員から何て呼ばれてるか知ってる?」
「「「観賞用!!」」」
三人の声が揃って、またもキャハハと笑い声が上がった。
「最初はアタックしてた男も多かったらしいけど、最近では『金が掛かりそう、疲れそう』って、ウケるよね」
何がウケるのだろう。
「あー、それあるある!うちらのダサい制服と比べて、自分は凄いのよ自慢的な?」
言われてあたしは自身の全身をチェックした。今日はそれ程でもないと思うけれど…
白い―――ハリーウィンストン……の腕時計。
思わず腕時計を庇うように手で覆う。
別に、見せびらかしているわけじゃない。女性社員の制服姿と比べたこともないし。
敢えて言うならば、昔……そうねあたしがマックスと結婚してからこうなって、元々お洒落することは好きだったし。
自分の好きな服やバッグを持って何が悪いの?
思わず出ていってそう問いただしたくなったが、
「てかさ~、あの人どこかは必ずブランド物じゃん?ぶっちゃけ給料幾らなんだろうね」
と話の方向がまたずれて、出て行くタイミングを逃した。こうゆうのって勢いがないとできない。
「えー、自分で買ってンのあれ?」
自分です、と今度こそ出て行きたくなった。
けれど
「柏木補佐ってさー、噂じ会長のヘッドハンティングで来たって言ってたけど、実は会長の愛人だったりして」
とんでもない仮説にあたしは思わず目を丸めた。
まさにさっき会長室でおじ様とプライベートな話をしたばかりだからタイムリー過ぎる。
「あ!そうかも!こないだ経理の子が言ってた。会長と柏木補佐が親し気に同じ車に乗るとこ見たって」
一人が思い出したように言い
あたしは「いつのこと?」と首を捻った。