Fahrenheit -華氏- Ⅲ
裕二は俺の会社用の携帯ナンバーを知らない。
結局、あいつが何を言いたかったのか分からず…
ま、いっか。大した用じゃねぇだろ。と言うことで携帯を閉じた。
向かい側のソファで
「あの……大丈夫ですか?」と瑞野さんが不安そうに眉を寄せている。
「たぶん大丈夫だろ、あいつからの電話って大抵大した用じゃないし」と俺は苦笑い。
「どーせ、綾子と喧嘩したとか、綾子が香港行って寂しいとか?そんなんだろ」と瑞野さんには聞こえない程度でぼそっ。
けど
「綾子…?って木下リーダ―のことですか…?」
ぅを!聞こえてた!?
俺は慌てて口を両手で覆ったが、
「木下リーダ―がどうされたんですか」と瑞野さんはどうやら『綾子』と言う部分だけ拾ったようで、勘違いしているのか綾子のことを心配している。
「いや、大丈夫!何かあったら親父から電話が掛かってくるだろうし、大丈夫ダイジョウブ」と言い、話題を逸らすため、俺はブラインドの外の景色を見た。
未だに停電が復旧していないのだろう、ライフラインが途絶えた東京の街は、ただののっぺりとした廃墟にしか見えなかった。
瑠華は―――
大丈夫だろうか。
あのマンションはオール電化だし…
まぁ、この会社同様きっと自家発電があるとは思うが…
それでも急に電力を失って、瑞野さんのように怖がってないだろうか…
ちょっと考えて……ロダンの『考えるひと』のように背を丸めて額に手を当てること数秒…
うん、大丈夫だろう。あのひとのことだから。
何かあのひと怖いものなさそうだし。
『あ、停電…』ぐらいしか思ってないだろうな。
しかもあそこは(やたらと仕事がデキる)ウチヤマも居るしな。
ウチヤマ、今日だけは俺の席を譲ってやる。だけど、その分しっかり瑠華を守れよ!
と、俺はウチヤマに全てを託した(←大げさ)