Fahrenheit -華氏- Ⅲ
部屋について改めてじっくりとファイルの中身を確認すると、そこに挟まっている紙は少しも濡れていなかった。そのことにほっとする。
18万程のボッテカのバッグより書類の方があたしにとっては大事。
あ、でももっと大事なことがあった。
あたしはスマホを取り出し、啓の……仕事用の携帯に短くメール。
”無事に帰りました。お気遣いありがとうございました。”
きっと心配してるよね。
そこから五分経っても十分経っても返信はこなかった。
心配―――……してくれてるのかな…
ため息が漏れた。
やっぱり佐々木さんが居る手前の社交辞令的な?上辺だけのものだったのか…
そんなことを考えると落ち込む。
いや、そんなことを考える自分に嫌気がさす。
何を期待しているの、あたしは。
バカみたい。
―――しかし冷える。
その場で服を脱ぎ、とりあえずは熱いシャワーでも浴びよう。
一仕事終えたらもう一度お湯をためて、ゆっくりバスタイムを満喫するのもいい。
そしたら気持ちも少しは落ち着く筈。
と言うワケでシャワーを浴び終え、髪を乾かし、スキンケアだけして大きめシャツだけを羽織り、あたしはあまり使わないダイニングテーブルの上に自分のノートPCを開けた。
改めてファイルを開け、啓に和訳するよう頼まれていた書類たちに目を通すと、カーテンを開いたままの大きな窓が一瞬、目がチカチカするような閃光をまき散らした。
その瞬間、もの凄い轟音が轟き、あたしの肩がびくりと揺れ、本能的に目をきゅっと瞑る。そこから音は無くなり、恐る恐る目を開けると、一瞬にして辺りが真っ暗になっていた。
最初何が起こったのか分からず、キョロキョロと辺りを見渡すと、PCとスマホ以外の全ての光と言う光が失われていた。ちらりと窓から見える東京の街も光を失っていた。
「あ、停電…」
と気づくのに数秒掛かった。