Fahrenheit -華氏- Ⅲ
良かった、シャワーだけ浴びておいて。
オール電化だから、シャワー途中だったら大変。
なんてことを考える程、自分で言うのもなんだけどあたしは冷静だった。
TRRRR!
スマホが鳴り、
090ーXXXX-XXXX
とのナンバーに首を捻りながらも電話に出ると、
『柏木さま!ウチヤマです。ご無事ですか!』と咳切ったように言われ、あたしは目をまばたいた。
「あ、はい。私は大丈夫です。それよりよく私の番号が分かりましたね」
『失礼ながらお客様の緊急連絡先名簿を確認させていただきまして』
「そうなんですね」
って言うことは、全ての世帯にこうやって連絡してるってことか。大変なお仕事だわ。
守るって、こう言うことだったのね。
『すぐに自家発電に切り替えますが、五分程お時間いただいても宜しですか』
「ええ、不便はしていませんので」
実際、PCはしっかり充電してあるし、テレビやオーディオもつけていない。シャワーも浴びたばかりだし。
『安心いたしました。ではすぐに自家発電に切り替えますので少々お待ちを』
と言われ電話は切れた。
椅子から立ち上がり、窓の外を見ると電力を失った東京の街が見下ろせた。こうやって見ると東京がいかに安っぽく混沌としているように見える。
まるで造りかけのジオラマを見ているようだ。
いえ、ジオラマだって明るい電灯の元で作られるのだ。
東京でもたった一回の雷で電力が失われる脆い街なのだ、と改めて思った。
ここは、この土地は
あたしの再出立の場。
いわばあたしにとってゼロポイントなのだ。
本来の姿がこうであったと言うのなら、何だか酷く納得できるし、そうであって欲しいと少しの願望。
あたしは―――この電力を失って混沌とした東京が
嫌いではない。