Fahrenheit -華氏- Ⅲ


何て答えていいのか分からなかった。


あたしは何もかも捨ててきた―――つもりでいた、けれど捨てられないものもあって。


―――それが心音だ。


心音の方があたしに『捨てられた』と思ってるんじゃないかしら…


「心音だってシスターたちに支えられるじゃない」


結局、返す言葉に詰まり当たり障りのない返答になってしまった。


『まぁ?そうだけど。でもケイトがそのこと知ってたのは意外だわ』

 
「ごめんなさい、啓から切り出されて」


『いいのよ、ホントのことだし』心音はカラカラと笑った。心音が笑う度にグラスの中のブランデーが揺れる。


ゆらゆら…その琥珀色が揺れるのを見ていると、ちょっとほっとする。


でもたまに不安になることもある。


”ねぇ、あたしがやってること、間違ってないかな”と聞きたくなる。


でも走り出した列車は停まらない。


あたしはやり切ってみせる。




啓を守る―――




それだけの信念の為、あたしはあたしが選んで道を貫き通さなければならない。


心音を巻き込んでまで計画したのだ、尚更。


そしてもう一人、麻野さんを巻き込んでしまう。


彼に火の粉が飛ばないように細心の注意を払って、けれど”大事な証人”になってもらうのは彼の力が必要なのだ。


麻野さん、借りを返して貰う時が来たわ。


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