Fahrenheit -華氏- Ⅲ

旧東星紡、現アメリカン・ウェストスター東京支社は麹町に位置している。


今日は神流グループに出社することなく、東星紡に直行と伝えてある。


小野田専務とは事前にアポを取ってある。広いエントランスロビーの受付カウンターでスムーズに小野田専務に取り次いでもらった。


二人で商談するには広すぎる応接室に通されて、そこで高級な香りのするコーヒーをいただきながら


「それでは、これで最終調整とさせていただきます」とあたしは幾つかの書類を小野田専務に提示した。


「あなた方には決してご迷惑をお掛けいたしません」と険しい顔つきで小野田専務をまっすぐに見据えると、彼はあたしの真剣さにも動じずおっとりと微笑みながら


「柏木様を信頼していますので、ご心配なく」と彼はテーブルの上の書類を手元に引き寄せた。


「こんなことに巻き込んでしまって申し訳なく思っていますが」


「いいえ、こちらにとってはメリットの方が大きいので、ありがたいお話だと喜んでいます」


そう言ってもらえてほっとした。


「では、このまま話しを進めさせていただきます」


「ええ、期待してます」


最後のコーヒーを飲み干して、あたしたちは小野田専務のお見送りで東星紡を後にした。




小野田専務、あなた方の為にも


あたしは必ず成功させて見せる。


改めて東京の空を眺め、あたしは目を細めた。

< 425 / 608 >

この作品をシェア

pagetop