Fahrenheit -華氏- Ⅲ
君の荷物、半分持たせて。
♠ K ♠
20XX年 11月18日
―――
一睡も、
出来なかった。
俺はげっそりとした顔つきでソファにもたれかかり、向かい側のソファで心地良さそうに眠っている瑞野さんを眺めた。
瑞野さんもな~……簡単にオトコと二人っきりになるなよ。無防備って言うの?
それにしても……
寝顔も可愛いな。
俺は膝の上で頬杖をついて、彼女の長い睫毛が白い頬に影が落ちて、淡い色の唇がうまそうなあどけない寝顔を見つめた。
って…
いかんいかん!
俺、何思ってンの!?
てかもう朝の7時ジャン!?そろそろ瑠華が出社してくる。その前に瑞野さんを起こさなきゃ。
「み、瑞野さん…」ほんの僅か肩に触れ、揺さぶろうとすると、瑞野さんが長い睫毛を震わせてうっすらと目を開いた。
俺が瑞野さんを覗き込んでいたからか、瑞野さんはパっと目を開いて
「部長…!?」と言いながらガバっと起き上がった。
「……えっと…あの…」瑞野さんは辺りをキョロキョロと見渡しながら、昨夜のことをゆっくりと思い出したのか
「……すみませ…昨日はご迷惑を…」と蚊の鳴くような小さな声を震わせた。
そしてテーブルに乗せられた俺のノートPCと何枚かの書類を目にすると
「もしかして……一晩中…お仕事されてたんですか…?」
「…まぁ…ね。俺が居なくなったら瑞野さんまた不安がるだろうし」
俺は欠伸を漏らしながらしばしばとする目を擦った。
「…もしかして…寝られてないんですか?」
「え…?うん……俺、ちょっと神経質な所があるからさ~…」俺は頭の後ろに手をやりへらへらと笑ってみせた。
「それに俺も寝ちまったら、また雷とか鳴ったら瑞野さん怖いだろうし」
これも本心だ。
「ありがとうございます」
瑞野さんは酷く恥じ入ったように身を縮こませた。
「良いって、良いって。それよりもちょっと早いと思うけど、会長室あがったら?そろそろ、ここの社員たち(瑠華)も出勤してくるだろうし」
瑞野さんと一晩中、二人きりだったことを知られたら洒落にならん。