Fahrenheit -華氏- Ⅲ
直行とは書いてあるが、行先が書いてない。
どこへ行ったのだろうか。
そんなことを考えているうちにあっという間に始業時間になった。
瑠華は昼休憩間近に返ってきた。
上品な色合いのグレージュのジャケットと同じ色合いのカットソー、ネイビーのスカートはラインがきれいだ。スカートから覗く脚が眩しいぜっ!!
って、瑠華の美脚に見惚れてる場合じゃない。
「ただいま戻りました」
瑠華はこれまた上品な色合いの黒のカッチリしたバーキンを置き
「お帰りなさい」と佐々木はのほほんとしている。
そのついでに『どこに行ってたんですか?』とか聞いてくれればいいけれど、佐々木は前を向き直りPCに向き合った。
おい、佐々木、突っ込んでくれよ。
俺が聞いたら
『相変わらず話を聞いてないのですね、部長は』と白い目で見られるの間違いなし、だし。
あまり……無駄な会話をできない……
別れた男から『どこへ行ってたの?』なんて、例え仕事とは言え詮索されたくないだろうし、
口を開いたら俺の気持ちが一気に溢れそうで。
瑠華と佐々木が昼休憩に入る間近、裕二が俺の元を訪ねてきた。
「啓人!お前いつになったら携帯の充電復活するんだよ!」
と言われ、
あ、忘れてた。と今頃になって思い出した。だってプライベート用の携帯なんて仕事中は必要ねぇし。
瑠華がちらりと顔を上げ、裕二が瑠華の方を気にするように
「啓人、ちょっと…」と小声で言い、俺の腕を引っ張り立ち上がらせた。
「何なんだよ、昨日から」俺は睡眠不足と疲労でクタクタだっつうのに。
と目を吊り上げたが
「話がある」とこっちもいつになく真剣な裕二の表情を見て、ここで話しづらいこと??一体何?
と訝しながらも大人しく裕二に引っ張られついていく。