Fahrenheit -華氏- Ⅲ
廊下に出てすぐに裕二は
「あのさ、昨日俺んとこに変なメールが入ってきてさ…」と裕二は切り出した。
「変なメール?」
何それ。
「あ、携帯とかじゃなく俺のPCなんだけど…」と裕二が言いかけたとき
カチャっ
小さな扉が開く音が聞こえ、中から瑠華が出てきた。
裕二はピタリと口を閉ざした。
瑠華の手には分厚いファイル類がたくさん積まれている。俺たちの姿も見えてないのか、顏を横にずらしてそろりそろりと前を向きながら、今にも折れそうなピンヒールで歩いている。
俺は瑠華の華奢な背中を見つめ
危ないなー……
大丈夫かな、とちょっと心配……してたら
「キャっ!」
ヒールが傾き、案の定ファイルがぐらつき
「危ない!」
俺は咄嗟のことで瑠華に手を差し伸べていた。
華奢な彼女を背中から抱きしめる形になって、ドキリとしたのは……一瞬で
バサバサッ!
俺の足のつま先にいくつかのファイルが直撃した。
「ってーーー!」
かっこ悪く思わず声をあげると、俺の腕の中瑠華が慌てて振り返る。
「大丈夫ですか!」
「うん、大丈夫ダイジョブ。それより……柏木さんは怪我ない?」
正直―――瑠華のことを”柏木さん”と呼ぶのはまだ、慣れない……てか普通に社内では今までも”柏木さん”だったけれど、
会社以外で”瑠華”と呼べる日は―――いつになるのだろう。