Fahrenheit -華氏- Ⅲ
フォルダを展開しているのだろうか、その中身を確認しているのだろう心音は
『Wow!やっぱユージは最高にクールでセクシーだわ♪このプログラム最高ね!』と興奮気味に言う。
「やっぱり、相当厄介なものだったの?」不安そうに眉を寄せると
『安心して?彼のプログラムはなかなかのものだけど、上には上が居るってこと、心音サマが教えてあ・げ・る♡』
と心音はジョークさえ交える余裕があるようだが、こっちは余裕なんて感じていられない。
いつ、この資料室に誰が来るか分からない状況だ。
鍵を掛けることも考えたけれど、あたし一人の状態で内鍵を掛けたらそれこそ怪しまれる。
心音はファイルを塗り替えたのか、次々と今度はこちらのUSBにフォルダが転送されてきて、今度はあたしがその転送されたフォルダを元々あったフォルダに上書きする番。
その途中だった。
賑やかな女性社員の声が遠くで聞こえたのは。
「もー、資料運びとかヤダよねー」
「ねー、重いしあそこの資料室埃っぽいし」
あたしは思わず入口の方を振り返った。額に汗が浮かぶ。
「心音、早くして!」小声で声を荒げると
『あと3秒』心音が短く言い、きっちり3秒後、フォルダが転送されてきた。
あたしが慌てて最後のフォルダを元あったフォルダに上書きしているときだった。
ガチャっ
資料室の扉が開き、予想通り女性社員二人がいくつかの資料を抱えて顔を出した。
資料検索の為設置されたPCの前にいたあたしを見ると二人は慌てて
「「お疲れ様で~す」」と頭を下げる。
「お疲れ様です」
大丈夫、USBのファイルの窓は閉じたし怪しいところはない。
あたしはイヤホンをさした耳を隠すように髪に触れイヤホンを隠し、PCを庇うように背を向け
「柏木補佐も資料探しですか?外資物流て佐々木さんが居るのに」と女性社員が苦笑い。
「ええ、ちょっと難しい案件でいくつもあったので。それに返したい資料もあったのでついでに」といつになく早口で饒舌になったあたしに女性社員は意外そうに目をまばたく。
あたしはそろりと手を背中に回し、PCにささったUSBを引き抜こうとしたが、
どこ!?
指先がなかなかUSBを捉えられない。