Fahrenheit -華氏- Ⅲ
額に嫌な汗が出る。
「あなたたちも資料運び大変そうですね」
何とかPCから目を逸らしたいあたしは強引に笑った(…つもり)
「そうなんですよー。うちらの部署、部長が人使い荒くって~」と一人が答え
「ちょっと…」と一人が窘める。
ちょうどその時だった。
USBがあたしの指先に触れ、あたしは慌ててそれを抜いた。引き抜くとき、カチッと小さな音がしたけれど彼女たちには聞こえなかったようでまるで気にしていない。あたしはそれを手のひらに包みこみ、額に浮かんだ汗を拭いながら、まだ通話中になっているスマホをポケットにねじ込み、モニターの横に置かれたいくつかのファイルを手にした。
ここで話を変な風に切るのも変に思われる。
「あまり人使いが酷いようでしたら、パワハラを訴えても宜しいんじゃないですか」
とあたしが彼女たちに進言すると彼女たちは顔を見合わせた。
「そうしたいのはやまやまですけど、そうしたら今度は何されるか…」
「ねー」
「今はコンプライアンスの時代です。もし何かされるようであればいつでも相談に乗りますよ」と言うと、またぞろ二人は顏を見合わせ
「……な、何か柏木補佐がついてたら心強いかも…」
「ね、物流管理の”あの”村木部長とも派手に言い合って言い負かしてたし(※)」※Fahrenheit参照
「ありがとうございます。あ、うちらも柏木補佐の資料仕舞い手伝いますよ」
と、意外な申し出に目をまばたいた。
「いえ……私が……」言いかけて
「では、お願いできますか」と素直に頷いた。