Fahrenheit -華氏- Ⅲ
いくらUSBの中身をコピーしたからと行っても、そうのんびりもしていられない。
この上書きしたUSBを啓に返さなければ。
心音にはさっき『適当に誤魔化す』とか言ったけれど……
あたしから返すのはマズイわよね。だって麻野さんは見るからにあたしを疑っているようだったし。
それに、今頃麻野さんから受け取った筈のUSBが無くなって慌ててるかも。
慌てて部署に戻ると、デスクに座りPCに向かい合っていた啓は―――
マウスを掴みつつも、時折ガクリと首を折っている。
珍しい……
居眠り?
首ががくりと傾き慌てて顔を起こして眉間を揉んでいる。
何だろう……見慣れない(と言うか初めて見た)光景だからかな。
何か……
可愛い。
疲れてるのかな。そう言えば昨日はトラブルで会社に泊まったとか言ってたし。
と思ってあたしは慌てて頭を振った。
啓はUSBが無くなってることに気付いていないのだろう。これはチャンスだ。
しかしどうやって返そう。
ぐるりと部署内を見渡すとあたしの向かい側の佐々木さんの席は空席だった。
昼休憩じゃないから、どこかの部署へ出向いているのだろう。
あたしはフェイクで持って行った資料の内、必要な書類だけ持ち返った。そのファイルの一冊を佐々木さんのデスクに置き、USBを彼のデスクにそっと置いた。
啓は肩をこきこき回しながらも、あたしが帰ってきたことに(流石に気配で?)気付いたのだろう、
「あ、おかえり」と眠そうに目をしばたたかせる。
あ……
可愛い…
そう思いながらも
「ただいま戻りました」そっけなく言い、あたしもデスクに腰を下ろした。