Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「ただいま戻りました~」
佐々木さんは五分足らずで帰ってきた。
「もー、相変わらず頭の固い連中で困りますよ、経理部は」
と口を尖らせている。
持ち返った数枚のプリントされた用紙をデスクに置きながら
「あれ?このUSB、僕のじゃないですけど…」と例のUSBを取りあげる。
そこで啓が顔を上げ、慌ててスーツのジャケットの胸ポケットの中に手を入れ、そこではじめてUSBが無くなっていることに気付いたのだろう。
「あ、あれ?何で佐々木んとこに?」と言い
「わり、それ俺の」と手を上げた。
「部長のですか?何でこんなとこに」と佐々木さんは訝しんでいたが、啓は
「お前んとこ通り過ぎるとき落ちたんだろ」とあまり気にしていない様子。
そのことにほっとする。
思わず胸に手を当て撫で下ろしそうになったけれど、それを何とか堪えた。
Mission clear
なんて、大げさね。
啓は佐々木さんからUSBを受け取り、それを再び胸ポケットに仕舞った。
その際、ちらりとあたしの方を気にする視線を感じたけれど、あたしはその視線に気付かなかったフリ。
黙々とPCに向かい合っていると、啓はそれ以上視線を寄越してくることがなかった。
これで啓が麻野さんの言葉を信じて、あたしのPCにUSBを差し込んでくれれば―――
全ての作戦は成功する。
ただ今は
今日の本当の意味でのMissionに彼がここに来ないことを祈るしかない。
あなたを
巻き込みたくない。