Fahrenheit -華氏- Ⅲ
瑞野さんのことを知りたい、と思ったのは俺だ。
けれど、これ以上深いりしていいのか―――
瑞野さんのお母さんが登場となると、最早俺と瑞野さんだけの問題じゃなくなる気がする。
気が重い。
しかし時間は刻一刻と流れる。
きっちり一時間で瑠華と佐々木が帰ってきた。
あーあ、今日も二人で社食か…
羨ましいぜ佐々木。
頬杖をついてぼんやりしていると
「考え事ですか?」
予告もなく瑠華の顔がふっと俺の視界を遮った。
び……
びっくりしたぁ!!!
ズサっ!
思わず椅子ごと後ずさると
「難しい案件でも?」瑠華は俺の奇行に(いや、もはや慣れてる??)気にした様子もなく、相変わらずの無表情で聞いてきた。
「あ、ううん、大したことないけど、ちょっと集中力が…」
「寝不足のようですしね」と佐々木が同情気味に眉を寄せる。
「寝不足?」
瑠華が聞いてきて
「あ、や!ちょっとトラブルがあって!ほらっ、会社泊まったろ?俺、神経質だからあんま慣れないとこで寝れなくて」
半分本当で半分嘘だ。
まさか瑞野さんと一晩を共にした(←言い方)なんて言えねぇ。
「大規模な停電もありましたしね。IDカードのスキャナーが使用できなかったとか、ですか?」
と、珍しく瑠華が聞いてきて、そうではないが俺はうんうんと大きく頷いた。
まぁ実際停電のせいでエレベーターが止まったしな。
極力この話題から逃げたい俺は
「俺、昼飯食ってくるワ」と言ってまるで逃げるようにその場を立ち去った。