Fahrenheit -華氏- Ⅲ
社食を利用する気になれず、かと言って近くのカフェに入ることもなく、結局立ち食い蕎麦屋で簡単に済ませることにした。
そう言えば、この蕎麦屋って心音ちゃんと遭遇した蕎麦屋だったよな。
山菜掛け蕎麦を啜りながら、ふと思い出す。
何で―――
今更ながら心音ちゃんのことを思い出したのだろう。
『ケイト、
必ず―――
あたしを勝たせて。
今回ばかりはクジラはいやよ』
俺は割りばしをぐっと握った。
勝たせるよ。
必ず―――
――――
――
午後はあっという間に過ぎていった。
瑠華は定時の1時間後に「お先に失礼します」と言って帰っていった。佐々木もその三十分後に日報が届き、「それじゃ僕も失礼します」と言い帰っていった。
佐々木が帰っていくのをきっちり見届け、俺は周りに誰もいないことを確認しながら瑠華のPCに近づいた。
当然、電源は落とされモニターは真っ黒だ。
USBの差し込み口は四つ。
なるべく目立たないよう、一番下の少し影になっているところに差し込んだ。
「これでいいんだろ?裕二」と独り言。
よし、裕二に言われた通りUSBも差し込んだ。
時間を確認すると夜も20:00近くになっていた。
「ヤッベ!急がないと」
俺はバッグとコートを取りあげ、部署を後にした。