Fahrenheit -華氏- Ⅲ

あたしは自分のブースの明かりを灯すことなく、自分のデスクのPCを見下ろした。


薄暗い視界の中、通話中になっていたスマホをデスクの上に置く。遠くの広報部の明かりが僅かに漏れていて、あたしのPCがほんの僅か照らし出されていた。


PCのUSB差し込み口、四つある内の一番下。少し影になっている場所に今日心音とあたしが内容をすり替えたUSBがきちんとさしこんである。またも口元に淡い笑みが浮かんだ。


啓は―――麻野さんの進言を実行してくれたようだ。


やがて遠くの方で灯りが消えた。あたしはスマホを伏せ、啓のデスクの椅子の影に隠れた。


「つっかれた~!締め切り前って何でこんなに忙しいんだろうな」


「社内報だからみんな適当って言うか。一杯飲みにいかね?」


「お~いいね~」


彼らの足音が遠ざかり、……そう言えばつい数日前社内報に乗せるインタビューを頼まれたが、丁重にお断りしたのだ。


「ごめんなさいね」私は椅子の影に隠れながら小さく言い、彼らが出ていってフロアの扉がパタンと閉まったのを見届け



「お疲れ様」あたしはニヤリと笑いながらそっと囁いた。


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