Fahrenheit -華氏- Ⅲ
「じゃぁ部長さんもお料理もなさるの?」
正直”部長さん”と言われるのはくすぐったいが、
「はい、まぁ一通りは」と笑った。
「なるほど、何もかもできると男性一人暮らしでも不便はしないものですね」
「そ、そうですね…」
同じく男一人暮らしの裕二は掃除洗濯はするものの、料理は全くだがな。
「でも私の同期の一人は調理師免許を持っていて、あ、最近結婚して子供も生まれたばかりなんですが、料理は奥さんではなく彼が担当みたいで。奥さんも同じ調理師免許を持っているようですが」
……って、俺何話してンの??
すまんクロキリ、お前の話題で話を逸らした。
「桐島主査って言ってね、すっごく優しいの」瑞野さんが付け足した。
「ああ、みゆきが酔っぱらったときお電話いただいた……その方もお誘いした方が良かったかしら」
「いえ、彼は家庭があるので急はちょっと難しいかと。お気持ちだけありがたく頂戴します」
「もぉ、本当にみゆきは色んな方々に迷惑ばかり」
お母さんが吐息をつく。
かぼちゃの冷製ポタージュが運ばれてきた。
「いえ、迷惑だなんてとんでもないですよ。普段は仕事ができるのに、社外になると守ってあげたくなる感じで。私を含め私の周りの人間もみゆきさんを支えたい、と。
きっとお母様の教育が宜しかったのですね。女性一人で子供を育てられたこと、素晴らしいことだと思います」
本心だった。二人の様子を見るとそれが分かる。
かぼちゃのスープを口に含むとまろやかで、しかしコクのある味が口いっぱいに広がった。
まるで瑞野さんを現しているようだ。
同じくスープに口を運んでいたお母さんが
「まぁ」とちょっと驚きの声をあげ、瑞野さんは顔を真っ赤にさせている。
「そんな風に言われたの初めてで…」お母さんもちょっと顔を赤らめ、それを鎮めるためか、両頬を手のひらで包む。
「どんな理由であれ、片親だと何かとつけて周りの目が気になってしまって…けれどそう言って貰えてどんなに嬉しいか」
お母さんはまるで少女のようにはにかんだ。