Fahrenheit -華氏- Ⅲ
俺は瑞野さんの父親の不在の理由を知らない。
でも知らない方がいいだろう。しんみりするのはイヤだし、元々誰かの内側に深く入りこむのは面倒だ。
鱈のポアソンが運ばれてきた。じゃがいも、キャベツ、そしてエンドウ豆がオシャレに盛りつけてある。
それを上品に切り分け
「美味しい」と食す瑞野さん。
流れるような自然な仕草はいかにも慣れているようだ。流石会長付きの秘書ともなるとこんな風になるのだろうか。
俺も鱈にナイフを入れようとしたところで
「そう言えば、空ちゃんも同じ会社だったわね。部長さんの下で働いているのかしら」
お母さんの言葉に、俺と瑞野さんの手が止まった。
空ちゃん―――二村の事だよな。
ぴくり、と眉がひきつるのが分かった。
その空気を読んだのか、瑞野さんがいち早く
「空……二村くんは部長とは違う部署なの」
「あら、そうだったの?」
「ええ……私の隣の部署でして、私は殆ど関わりが…」
有りまくりだけどな。
あいつがどこまで瑞野さんと親しいのか分からなかったが、親が知ってるぐらいだからな、相当親密なものなのだろう。
瑞野さんと彼女のお母さんと食事会。
最初はちょっと気が重かったが、思わぬ収穫もあった。