Fahrenheit -華氏- Ⅲ


残り五分を切った所だった。


今の所ヴァレンタイン、いいえマックスが付けた価格は$3,372,389(日本円で大よそ3臆7千万)が一番高値だ。


そろそろ引き際か。


いいえ、まだ吊り上げる。


『あと一歩と言うところかしら』


心音も同意見なようだ。


テンキーに手を置いたところだった。




ガチャッ



扉が開く音がした。


思わずモニターから目を離して音のなる方を見ると





啓――――




が、肩で息をして携帯を耳に当てたまま目を開いていた。


思いっきり目が合った。


もしかして―――


別れて初めてこんな風に視線を合わせたのかも。


皮肉なものね。






「――――何で……」



あたしは目を開いた。


帰った筈じゃ―――……


「心音!」思わず心音に怒鳴ると


『ユージの妨害を阻止する為、そっちに目がいってなかった!』心音の焦った声は演技ではなさそうだった。麻野さんとのやり取りで、啓の出勤情報を見落としていたのだ。


心音!『ごめん』じゃ済まないわよ!


あたしはモニターに向かい合った。


あと一歩!


「裕二!何とかしろ!」


啓は麻野さんと電話をしているのだろう、同じように携帯に向かって怒鳴り込んでいる。どうやら啓の方も麻野さんと心音との一騎打ちのようだ。


啓はそのままあたしの元に走ってくる。


「瑠華!やめろ!!今すぐ止めるんだ!」


啓の声を間近で聞いた。


『邪魔はさせない』心音の低い声がスピーカーから漏れ聞こえてくる。


『瑠華!あともう一歩よ!』


そうだ……


もう一歩、あと一歩……


「やめろ!!!!」
『Light now!!(やるのよ!!)』



啓と心音、二人の声が重なり、あたしの視界は一瞬、黒と白、そしてそれらが混じってグレーのマーブル模様を作った。

< 467 / 608 >

この作品をシェア

pagetop