Fahrenheit -華氏- Ⅲ
残り五分を切った所だった。
今の所ヴァレンタイン、いいえマックスが付けた価格は$3,372,389(日本円で大よそ3臆7千万)が一番高値だ。
そろそろ引き際か。
いいえ、まだ吊り上げる。
『あと一歩と言うところかしら』
心音も同意見なようだ。
テンキーに手を置いたところだった。
ガチャッ
扉が開く音がした。
思わずモニターから目を離して音のなる方を見ると
啓――――
が、肩で息をして携帯を耳に当てたまま目を開いていた。
思いっきり目が合った。
もしかして―――
別れて初めてこんな風に視線を合わせたのかも。
皮肉なものね。
「――――何で……」
あたしは目を開いた。
帰った筈じゃ―――……
「心音!」思わず心音に怒鳴ると
『ユージの妨害を阻止する為、そっちに目がいってなかった!』心音の焦った声は演技ではなさそうだった。麻野さんとのやり取りで、啓の出勤情報を見落としていたのだ。
心音!『ごめん』じゃ済まないわよ!
あたしはモニターに向かい合った。
あと一歩!
「裕二!何とかしろ!」
啓は麻野さんと電話をしているのだろう、同じように携帯に向かって怒鳴り込んでいる。どうやら啓の方も麻野さんと心音との一騎打ちのようだ。
啓はそのままあたしの元に走ってくる。
「瑠華!やめろ!!今すぐ止めるんだ!」
啓の声を間近で聞いた。
『邪魔はさせない』心音の低い声がスピーカーから漏れ聞こえてくる。
『瑠華!あともう一歩よ!』
そうだ……
もう一歩、あと一歩……
「やめろ!!!!」
『Light now!!(やるのよ!!)』
啓と心音、二人の声が重なり、あたしの視界は一瞬、黒と白、そしてそれらが混じってグレーのマーブル模様を作った。