Fahrenheit -華氏- Ⅲ
私は目をぎゅっと閉じ、Enterキーに置かれた指に力を入れようとしたときだった。
あと一歩……
と言う所で
ブチッ……
突如として画面が真っ暗になった。
最初は何が起こったのか分からなかった。目を開いて黒くなった画面を見つめる。
啓は肩で息をしながら、心音から受け取った赤いUSBを握っていた。どうやらそれを引き抜いたようだ。
嘘―――……
目をまばたき黒い画面を見つめていたら、すぐにオークション画面に戻った。
心音のUSBは対ウィルスのバリアだ。オークション自体を終わらせるものではない。
画面はヴァレンタインが付けた$3,372,389(日本円で大よそ3臆7千万)で止まっている。
すぐにそれより高値を付けなければ。
あいつは秒の単位でセリ落としてくる。
あと一歩!
と言う所で、再びモニターがブラックアウトした。
啓がほぉっとため息を大きく付き、デスクに腕を付きながらその場に膝を付き項垂れた。
あたしは再び大きく目を開いた。
「………間に合った……
裕二、サンキュ。偽のオークションを止めることができた」
啓の言葉に、あたしはまだ肩で息をしている啓を見下ろした。
「何で……」
最初に出てきた言葉は、随分間抜けだったに違いない。
『Dammit! That was close!(あと一歩だったのに!)』スピーカーにした携帯の向こう側で心音が怒鳴る。
「どうして!」
あたしは啓に向かって怒鳴り声を上げていた。
こんな風に―――啓に怒鳴るのは殆ど初めてだ。
「あと一歩だったのよ!」
啓がのろのろと顔を上げ
「じゃぁ俺も言うが!!君たちのやろうとしたこと、やったことは場合に寄っては会社にとって大損害をもたらすところだった!
それだけならいい!違法行為にもなるんだぞ!」
啓の怒鳴り声を聞いて、あたしの肩からふと力が抜けた。